山を越えて一時間ほど走ると、今度は海が見えてくる。東海地方には、そういう地形の落差があります。
岐阜の刃物と美濃焼で、切ると盛るという台所の両輪を埋めたばかりの東海の取り合わせ。今回そこに置くのは、切って盛った先にある主役——肉です。実りの斜面、水の際、台所の道具に続いて、東海の地図はこれで四つ目の一枚が埋まります。
ただし今回の東海は、近畿の系図でも、九州の畜産規模でもなく、山と海という気候の対比で読む土地です。岐阜の飛騨高山は山あいの盆地、三重の松阪は伊勢湾に近い平野。同じ東海地方の中に、まったく違う気候で育つ二つの銘柄牛が並んでいます。部位や量目の実務的な基準は、すでに別の記事で一度整理してあります。ここで見るのは、山と海、それぞれの気候が牛にどう関わってきたかという産地の事実です。
岐阜県飛騨:山あいの盆地で育つ黒毛和牛
飛騨牛は、岐阜県内で一定期間肥育された黒毛和牛のうち、決められた等級基準を満たしたものに与えられる名称です。岐阜県は内陸県で、なかでも飛騨地方は山に囲まれた盆地地形が広がり、冬は雪が積もる寒冷な気候として知られています。この寒暖差の大きい山あいの環境が、肥育に適した条件として紹介されることが多い土地です。
飛騨高山を中心とした山あいでは、古くから牛が農耕や運搬に使われてきた歴史もあり、その系譜の延長に現在の肥育技術が積み重なってきたと語られます。山に囲まれているぶん流通の規模は大きくありませんが、それだけに一頭ごとの管理が行き届いた銘柄として紹介されることが多いのが飛騨牛です。
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三重県松阪:伊勢湾に近い平野で育つ銘柄牛
松阪牛は、三重県松阪市を中心とした一定の地域で肥育された黒毛和牛のうち、決められた基準を満たしたものに与えられる名称です。三重県中南部は伊勢湾に面した平野が広がり、飛騨の山あいとは対照的な、温暖で穏やかな気候の土地として知られています。
松阪牛は、肥育期間の長さと、一頭ごとの成育を記録する管理の仕組みが特徴として紹介されることが多い銘柄です。日本を代表する銘柄牛の一つとして名前が挙がることが多く、その知名度の高さから東海地方の顔として扱われることも少なくありません。
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愛知県:三河牛など、東海を面で埋める銘柄
愛知県にも、地域名を冠した牛が返礼品として並びます。三河地方などで肥育された黒毛和牛が「三河牛」の名で流通することがあり、東海地方の中では飛騨牛・松阪牛に次ぐ存在として紹介されることがあります。山と海、二つの気候の間に位置する愛知の牛は、東海の地図を面で埋める銘柄として隅に置いておく価値があります。
山の飛騨牛、海の松阪牛、迷ったときの選び方
銘柄名は育った気候の対比を示しますが、そのまま「どちらを選ぶか」の答えにはなりません。実際に選ぶときは、銘柄表記に部位と用途を掛け合わせて絞り込みます。
| 銘柄 | 産地 | 食べる楽しみ | 迷ったらこう選ぶ |
|---|---|---|---|
| 飛騨牛 | 岐阜県(飛騨) | きめ細かな霜降りが、すき焼きの割り下でとろけるように溶ける | すき焼き向きならリブロースか肩ロース、部位表記を確認 |
| 松阪牛 | 三重県(松阪) | しっとりとした赤身と脂の甘みが、しゃぶしゃぶで際立つ | しゃぶしゃぶ・すき焼きどちらも肩ロースかモモの表記を見る |
| 三河牛 | 愛知県 | 東海の中では控えめな流通量、見つけたときの一点購入向き | 流通量が少ないため部位より在庫の有無から確認 |
※いずれも一般的に言われる傾向であり、個々の返礼品の品質を保証するものではありません。銘柄間の優劣を示すものでもありません。
初めて東海の銘柄牛に手を伸ばすなら、正肉より切り落としが入り口になります。切り落としは部位が混在する分、寄付額に対する量目が大きく、山と海、二つの気候の違いを味見する場としては気負わずに試せます。
一揃いの組み方
東海の牛肉を山と海、両方で眺めたいか、一つの気候を掘り下げたいかで動き方が変わります。
山と海を横断したいなら、飛騨牛と松阪牛の切り落としを少量ずつそろえます。同じ黒毛和牛でも、寒冷な山あいで育った牛と温暖な平野で育った牛、気候の違いが味わいにどう表れるかを食べ比べながら確かめられます。冷凍庫の余白と相談しながら、小分けパックを選ぶのがこの動き方に合います。
一つの気候を深く追いたいなら、飛騨牛か松阪牛どちらかの正肉を軸に据えます。すき焼き用の肩ロースを定番にしつつ、しゃぶしゃぶ用のモモやステーキ用のサーロインへと部位を広げれば、一つの銘柄の中で用途の幅を確かめられます。
この土地に合わせるなら——すき焼きにもしゃぶしゃぶにも、まず添えたいのは白飯です。盛る器は、同じ東海の岐阜で焼かれる美濃焼を選べば、切ると盛るの両輪がそのまま食卓に上がります。うなぎは同じ東海でも水の際の取り合わせですでに扱った別の主役なので、ここでは肉の卓として完結させて構いません。部位選びと量目の実務的な基準はふるさと納税の牛肉の選び方に整理済みなので、そちらもあわせて確認してください。
合う人・合わない人・注意点
山あいの寒冷な気候と、海に近い温暖な気候、育つ環境の違いから銘柄牛を選びたい人には東海の牛肉が向いています。二つの気候を並べて味わう食べ比べを楽しみたい家庭にも組みやすい取り合わせです。
一方、銘柄の系図や畜産の規模といった物語性を求める人には、この対比の読み方は少し物足りなく感じられるかもしれません。流通量そのものは近畿・九州の銘柄牛と比べて突出して多いわけではなく、松阪牛以外は入手のタイミングに幅がある点も見込んでおいてください。
まとめ:山と海、二つの牛を一枚の膳に
東海の牛肉は、系図でも畜産の規模でもなく、山と海という気候の対比で選べる土地です。山あいの飛騨牛、海に近い松阪牛。育つ環境を知ったうえで、実際の一枚は部位と用途で決める。この二つを分けて考えられれば、東海の肉の取り合わせは迷わず埋まります。
最初の一歩は、飛騨牛か松阪牛の切り落としで十分です。気候の対比の続きは、食べながらでも追いつけます。
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